人気ブログランキング | 話題のタグを見る

『アンノウン・ソルジャー』

 なんとか駆け込みで観てきました、話題のフィンランド映画『アンノウン・ソルジャー』。
 配給の彩プロのいつものパターンで、掘り出し物のB級戦争映画風の宣伝をしていますが・・・とんでもない!堂々たる作品でした。




『アンノウン・ソルジャー』
(原題:Tuntematon sotilas フィンランド・ベルギー・アイスランド 2017年)

監督:アク・ロウヒミエス(Aku Louhimies)
原作:ヴァイニョ・リンナ(Väinö Linna)


 原作者ヴァイニョ・リンナが実際に従軍した経験を下敷きとして、「冬戦争(1939年11月-'40年3月)」に続くソ連との「継承戦争(1941年6月-1944年9月)」を描いたフィンランドでは知らない者はいないと言われる小説『無名戦士』を原作とした作品。とある機関銃中隊に配属された下級将校や兵士達の視線で「継承戦争」の推移を描いていく群像劇です。本作は『無名戦士』だけではなく、リンナの執筆した戦争小説の断片も組み込んでいる様です。
 1954年出版の『無名戦士』劇映画としては1955年、1985年に続く三度目の映画化で、テレビ映画(2009年)も入れると四度目の映像化との事。
 なお、日本公開のインターナショナル版は上映時間132分に対して、フィンランド版は180分。更に2018-'19年にかけて五回にわたるミニシリーズとして計270分のテレビ版もある様です・・・って冬戦争を描いた『ウィンター・ウォー(Talvisota フィンランド 1989年)』と同じパターンですね。

 『ウィンター・ウォー』が終始、どよぉぉぉん・・・とした重苦しい空気なのに対して、こちらは足取り軽く「ソ連との国境線を越えちゃったょ。東カレリアを取り戻したぜ!このままレニングラードまで占領しちゃうかい?」ってな感じで、緒戦は軽快に始まります。
 それでも「俺の故郷を取り戻したぜ!」という兵士もいれば、「ペトロザヴォーツク?なんでこんな小さな街をわざわざ取り返すの?」という兵士も居て、温度差も垣間見えますし、占領に際して略奪や暴行があった事も描かれています。元々ロシア人も住んでいるしね。
 もちろん、後半は停滞した塹壕線と、被害甚大な撤退と防衛戦とで、どよぉぉぉん・・・となる訳ですが・・・。


 良く出来た劇映画だと思います。
 戦闘シーンは派手ではないですが迫力も緊張感も有り、映像も美しく、兵士の群像劇としても、家族の物語としても過不足なく感動的でした。ありがちな物語といえばそうですが、奇をてらわず普遍的な物語に仕上げているとも言えます。上質な定番って、とても高いセンスと技術がいるのですよ。本当に。

 待ってる家族の元に帰るって大切。本当に大切。涙出ちゃった・・・。
 でもこの後、ドイツ軍を国内から追い出す「ラップランド戦争」が始まるんだよな・・・と思うと、どよぉぉぉぉん・・・・。


 それはそうと、小説やテレビシリーズでは描かれているのかも知れませんが、132分では描かれなかったり、フィンランド人にとっては当たり前ながら日本人ではキャッチ出来ない部分、僅かながらあるロシア語のセリフ(字幕無し)などから、意味が理解しにくいシーンも幾つかありました。

 例えば占領したペトロザヴォーツクでのシーン。地元の出身の古参兵ロッカが若い兵士ヒエタネンとヴァンハラを連れて、ロシア人の女性をかくまっている若い女性教師ヴェラのアパートに行く場面があるのですが、この女性のバックグラウンドが良く分かりません。恐らくロシア系フィンランド人だった人で、ソ連に割譲された時にロッカと違い、この街に残った顔見知りだとは思いますが・・・。因みに、演じているのはロシアの女優ジーナ・パジャルスカヤ(Диана Пожарская)。
 一件、純朴な兵士ヒエタネン君の恋物語の様に見えなくもありませんが、日銭を稼ぐ為に兵士の相手をしているのかなぁ・・・こういう苦しい時は一番弱い存在である独り身の若い女性達にしわ寄せが来るよなぁ・・・とか思うと、凄いイヤァなシーンだったりします。
 ヒエタネン君が、ヴェラの胸に付けているブローチを「記念に頂戴。」と貰うのですが、後から彼女を思い出すシーンでアップになると、うぉ!コムソモール章じゃん!と分かるのですが、ヒエタネン君は分かっていない様子・・・分かっているのかな?・・・一般の日本人の観客には何だか分からないと思うぞ。

 そんな観客に良く分からない部分を解説したりしてくれるのが、映画批評であり、プログラムなんですが・・・ミリオタ向けの内容に終始し、この映画についてもう少し深く知りたいという一般観客を置き去りにした内容に驚愕。
『アンノウン・ソルジャー』_a0193363_13104877.jpg
 背景になる戦史を解説しているんだけど、日本のフィンランド戦史好きって、あくまでもドイツ軍の延長線上でモノを見ているのが良く分かります。こういうのはフィンランド史の研究者に書かせないと理解の助けには成りにくいなぁ・・・。それと、スポンサー(シカゴレジメンタルス)との絡みがあるのでしょうが、出てくる武器や戦車の解説なんてどうでも良いのね。それよりも軍装、特に徽章類に関して、キャラクターと絡めて簡単な解説をしてくれた方が良い。そういう視覚情報で表現している事が多いから。
 その他にも、記事を書いている映画ライターはフィンランド映画の門外漢ばかりで、なんの学びにもならないし・・・。
 永遠の中二病患者・押井守とか、アパグループ代表・元谷外志雄という"芳ばしい"名前も見える著名人の、無意味に日本をフィンランドと重ねて外交や軍事を語ったり、「本当に映画観て、この感想?」ってなコメント欄も含めて、全体からミリオタの嫌な腐臭がして・・・映画は良質だったのに・・・なんだ?この冒涜的な内容は・・・と、怒りで寝付けない、そんな熱帯夜。


 追記(2019.12.01.):
 DVD & Blu-ray 出ました。買いました。

アンノウン・ソルジャー 英雄なき戦場 [Blu-ray]

エーロ・アホ,ヨハンネス・ホロパイネン,ジュシ・ヴァタネン,アク・ヒルヴィニエミ,ハンネス・スオミ/TCエンタテインメント

undefined




by redsoldiers | 2019-08-01 11:18 | 映画 | Comments(0)

歴史軍装研究と模型製作の狭間に


by redsoldiers
カレンダー
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31