『ブラックブック』
2016年 06月 15日
ポール・バーホーベン監督が、ハリウッドから離れて久々に祖国オランダで制作した『ブラックブック』。
うっかり劇場公開時に見逃してしまって以来、10年ほど機を逸していたのですが、ここにきてNHKラジオ『すっぴん』の名コーナー「高橋ヨシキのシネマストリップ」に取り上げられるという事で鑑賞しました。
『ブラックブック』
(原題:Zwartboek 2006年 オランダ・ドイツ・イギリス・ベルギー)
監督:ポール・バーホーベン(Paul Verhoeven)
脚本:ポール・バーホーベン
ジェラルド・ソエトマン(Gerard Soeteman )
撮影:カール・ウォルター・リンデンローブ(Karl Walter Lindenlaub)
音楽:アン・ダッドリー(Anne Dudley )
1944年ドイツ占領下のオランダ。裕福なユダヤ人家庭に生まれた女性ラヘル(Rachel)は、隠れ家から連合軍解放地区への脱出の途中で、家族を皆殺しにされてしまう。すんでの所で助けられた彼女は、レジスタンスに身を寄せ、髪を金髪に染め、名前もエリス(Ellis)と変えて、抵抗運動の工作員として陰謀と策謀、欲望の渦巻く時代に翻弄されながらも、力強く生き抜いていく。
素晴らしかったです。流石はバーホーベン御大。これだけの超尺で複雑な話を、だれること無く一気に最後まで見せてしまう技は凄いです。
バーホーベンらしい、ブラックユーモアで包んだグロテスクで露悪趣味的演出にあふれているのかな・・・と思いましたが、これが意外にしっとりとして落ち着きのある作風で(バーホーベンにしては・・・ですが)、派手さよりも美しさが際立つ映画でした。
とはいっても、そこはバーホーベン。画一的で一面的な物語りになっていません。
通常ならば善良な人びととして描くキャラクターを醜悪に、悪辣な人びととして描くキャラクターを好意的に描いていたりします。
例えば勝利に沸き立つオランダ人達の様子を醜悪に描きます。映画でもよく描かれるドイツ人と寝た女性達の髪の毛を切り落として戦勝パレードでさらし者にするのは勿論、逮捕したドイツの協力者達をおもしろおかしく虐待する様は、イラクのアブグレイブ刑務所での捕虜虐待事件をも連想させ、「ナチより非道い!」と言わせます。そもそもが、戦勝と解放に沸き立つオランダ市民を、愚衆としか描いていないのが強烈です。
また、本来は国民の良心として描かれる役回りのレジスタンスやユダヤ人をかくまう家族が、実はレイシスト・・・と、サラッと描いていたりします。
逆に、エリス(ラヘル)がハニートラップを仕掛けるドイツ軍情報将校ムンツェ(Müntze)大尉を、教養あふれる良識人として描きます。
更には、エリスの同僚でドイツ兵の愛人であるロニー(Ronnie)の描き方は特異です。物語の常ならば、その時の勝者となら誰とでも寝て、品性や教養を感じさせないキャラクターは、醜悪な裏切り者として最も残酷な運命をたどる所ですが、この作品では最も幸福な運命をたどります。
彼らに共通するのは、どんな時代であっても、決して自分を見失わず、しなやかで善良である事でしょう。
個人的に最も感動したシーンは、パーティの後、初めてエリスがムンツェ大尉の(裕福なオランダ人・・・恐らくユダヤ人から接収した)屋敷におもむいてベッドに誘うシーンですね。
折角、エリスは下の毛まで金髪にしたのに、ムンツェ大尉に一発で偽物の金髪と見破られ(流石は情報将校!)、「何で染めたんだ。何か必要があったからか?ユダヤ人なのか?」と彼に疑われてしまいます。とっさに自分の乳房や腰にムンツェの手を押しつけながら「コレはユダヤ?コレもユダヤかしら?」と笑いながら・・・私の胸や腰は劣って醜悪なユダヤ的なモノかしら?違うでしょ?・・・とでも言う様に、巧みにはぐらかして難を逃れるのですが・・・。
でも、ムンツェ大尉は、明らかにエリスをユダヤ人と見抜いているんですね。多分。それでも、何も言わずに彼女のオッパイやお尻を・・・そして彼女自身を受け入れるのです。それは目の前の情欲に駆られてしまっただけだとしても。
・・・つまり、そういう事だと思うのです。ユダヤだろうがドイツだろうが、オッパイはオッパイ、お尻はお尻。オッパイやお尻に・・・いやそもそも人間に国境や民族は無い・・・って事なんですよ。
そしてオッパイやお尻を見た時に・・・触った時に感じ、魅了された思いを素直に受け入れれば、自分自身を縛り付けていた不自由なモノから自由になれる・・・という事だと思うのです。
レイシズムやナチズムといった理性のふりをした激情に抗えるのは、素朴な欲情(愛と呼ぼう)しか無いんじゃ無いかな・・・と思ったら、オジサンてば涙が出てきちゃって(涙)。
しかしバーホーベン御大は、女優も男優もチャンと脱がすんだけど、撮し方がエロくてグロくて、とても美しいなぁ・・・。
一級の戦争スパイ映画としてお薦めです。
うっかり劇場公開時に見逃してしまって以来、10年ほど機を逸していたのですが、ここにきてNHKラジオ『すっぴん』の名コーナー「高橋ヨシキのシネマストリップ」に取り上げられるという事で鑑賞しました。
『ブラックブック』
(原題:Zwartboek 2006年 オランダ・ドイツ・イギリス・ベルギー)
監督:ポール・バーホーベン(Paul Verhoeven)
脚本:ポール・バーホーベン
ジェラルド・ソエトマン(Gerard Soeteman )
撮影:カール・ウォルター・リンデンローブ(Karl Walter Lindenlaub)
音楽:アン・ダッドリー(Anne Dudley )
1944年ドイツ占領下のオランダ。裕福なユダヤ人家庭に生まれた女性ラヘル(Rachel)は、隠れ家から連合軍解放地区への脱出の途中で、家族を皆殺しにされてしまう。すんでの所で助けられた彼女は、レジスタンスに身を寄せ、髪を金髪に染め、名前もエリス(Ellis)と変えて、抵抗運動の工作員として陰謀と策謀、欲望の渦巻く時代に翻弄されながらも、力強く生き抜いていく。
素晴らしかったです。流石はバーホーベン御大。これだけの超尺で複雑な話を、だれること無く一気に最後まで見せてしまう技は凄いです。
バーホーベンらしい、ブラックユーモアで包んだグロテスクで露悪趣味的演出にあふれているのかな・・・と思いましたが、これが意外にしっとりとして落ち着きのある作風で(バーホーベンにしては・・・ですが)、派手さよりも美しさが際立つ映画でした。
とはいっても、そこはバーホーベン。画一的で一面的な物語りになっていません。
通常ならば善良な人びととして描くキャラクターを醜悪に、悪辣な人びととして描くキャラクターを好意的に描いていたりします。
例えば勝利に沸き立つオランダ人達の様子を醜悪に描きます。映画でもよく描かれるドイツ人と寝た女性達の髪の毛を切り落として戦勝パレードでさらし者にするのは勿論、逮捕したドイツの協力者達をおもしろおかしく虐待する様は、イラクのアブグレイブ刑務所での捕虜虐待事件をも連想させ、「ナチより非道い!」と言わせます。そもそもが、戦勝と解放に沸き立つオランダ市民を、愚衆としか描いていないのが強烈です。
また、本来は国民の良心として描かれる役回りのレジスタンスやユダヤ人をかくまう家族が、実はレイシスト・・・と、サラッと描いていたりします。
逆に、エリス(ラヘル)がハニートラップを仕掛けるドイツ軍情報将校ムンツェ(Müntze)大尉を、教養あふれる良識人として描きます。
更には、エリスの同僚でドイツ兵の愛人であるロニー(Ronnie)の描き方は特異です。物語の常ならば、その時の勝者となら誰とでも寝て、品性や教養を感じさせないキャラクターは、醜悪な裏切り者として最も残酷な運命をたどる所ですが、この作品では最も幸福な運命をたどります。
彼らに共通するのは、どんな時代であっても、決して自分を見失わず、しなやかで善良である事でしょう。
個人的に最も感動したシーンは、パーティの後、初めてエリスがムンツェ大尉の(裕福なオランダ人・・・恐らくユダヤ人から接収した)屋敷におもむいてベッドに誘うシーンですね。
折角、エリスは下の毛まで金髪にしたのに、ムンツェ大尉に一発で偽物の金髪と見破られ(流石は情報将校!)、「何で染めたんだ。何か必要があったからか?ユダヤ人なのか?」と彼に疑われてしまいます。とっさに自分の乳房や腰にムンツェの手を押しつけながら「コレはユダヤ?コレもユダヤかしら?」と笑いながら・・・私の胸や腰は劣って醜悪なユダヤ的なモノかしら?違うでしょ?・・・とでも言う様に、巧みにはぐらかして難を逃れるのですが・・・。
でも、ムンツェ大尉は、明らかにエリスをユダヤ人と見抜いているんですね。多分。それでも、何も言わずに彼女のオッパイやお尻を・・・そして彼女自身を受け入れるのです。それは目の前の情欲に駆られてしまっただけだとしても。
・・・つまり、そういう事だと思うのです。ユダヤだろうがドイツだろうが、オッパイはオッパイ、お尻はお尻。オッパイやお尻に・・・いやそもそも人間に国境や民族は無い・・・って事なんですよ。
そしてオッパイやお尻を見た時に・・・触った時に感じ、魅了された思いを素直に受け入れれば、自分自身を縛り付けていた不自由なモノから自由になれる・・・という事だと思うのです。
レイシズムやナチズムといった理性のふりをした激情に抗えるのは、素朴な欲情(愛と呼ぼう)しか無いんじゃ無いかな・・・と思ったら、オジサンてば涙が出てきちゃって(涙)。
しかしバーホーベン御大は、女優も男優もチャンと脱がすんだけど、撮し方がエロくてグロくて、とても美しいなぁ・・・。
一級の戦争スパイ映画としてお薦めです。
by redsoldiers
| 2016-06-15 13:30
| 映画
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