『アフガン帰還兵の証言―封印された真実』
2011年 12月 28日
昨日、NHK-BS1で放映された「~シリーズ ソ連邦崩壊から20年~ アフガン帰還兵の20年 ~ある盲目弁護士の闘い~」を観た。
本人もアフガンに従軍し地雷で両目の視力を失いながらも、帰還後に弁護士資格を取得し、困窮する帰還兵の権利擁護に奔走する弁護士の見えない目を通して、ウクライナのアフガン帰還兵達の苦しい生活ぶりを追うドキュメンタリーだった。
今でこそ好景気のロシアと低迷するウクライナの差はあれど、ソ連崩壊後は旧連邦構成国は、どの国も混乱の渦に叩き込まれ、連邦が保証した帰還兵への社会保障は瓦解していった。
しかも、ソ連版ベトナム戦争と言われたアフガン戦争は(その規模はベトナム戦争と比べると、実は遙かに小さいのだが)、国家だけではなく、大なり小なり国民の心を傷つけ、多くの問題を作り出した。その一つが帰還兵の問題である。
そんな帰還兵及び軍属、そして家族の証言を集めたのが、ベラルーシの女流作家スヴェトラーナ・アレクシエーヴィッチの記した『アフガン帰還兵の証言―封印された真実』である。
『アフガン帰還兵の証言-封印された真実』
(原題:Цинковые Мальчики/亜鉛の少年達)
著/スヴェトラーナ・アレクシエーヴィッチ
訳/三浦みどり
日本経済新聞社 1995年
ISBN4-532-16175-4
ここには忘れ去られ、忘れられようとしていた多くの証言に光が当てられている。戦車兵、砲兵部隊の隊長、看護婦、軍事顧問、帰還兵の母親や妻・・・。
これらの多くは、意図的に忘れられようとされていた、或いは思い出という名の箱の中にしまわれようとしていた記憶の数々で、よって発表当時は強くネガティブな反応が引き起こされた様である。
しかも著者を含め旧ソ連人が自由な報道という物に慣れておらず、当初新聞に掲載された証言は、証言者を特定が出来てしまう様な表記だった様で、裁判所への提訴にまで至ったという。
(証言は一部が1989年に白ロシア共和国の新聞に、翌年2月に全国紙「コムソモールスカヤ・プラウダ」に掲載され、そして同年7月に月刊誌「民族の友好」に全文が掲載された。本書は、それを書籍の形にまとめた物の訳本)
そのせいか、この本の中では証言者を紹介する物は、「兵士、迫撃砲手」「大尉、ヘリコプター操縦手」「事務員(女性)」「母親」などといった肩書きしか記載されていない。
巻末に女流ドキュメンタリー作家の澤地久枝の寄稿文が掲載されているが、この問題に触れて「せめて年齢を記載して欲しかった」旨を述べている。証言を読み解く際に、その体験した年齢は重要な問題になるからだ・・・という理由からだ。
しかしながら年齢は、おおよそ推測をする事が出来るものだ。そんな事よりも、せめて「派遣された時期を表記して欲しかった」と思う。証言の中には、兵士の生活や、取り巻く政治的環境など、多くの情報に満ちているのだが、それを歴史資料として検証するには時代を特定する必要があるのだ。
例えば、在る帰還兵は手荷物検査でアレクサンドル・ローゼンバウムのテープを没収されたと怒っている。国では家の窓から普通に流れてくるのに!・・・と。
これはローゼンバウムがアフガニスタン戦争に批判的な歌を歌っていたかららしいが、彼自身はアフガンに慰問コンサートに出かけ、その様子がモスクワの中央軍事博物館に展示されているなど、軍との関係が良いイメージが在るので驚いた。もっとも、それは連邦崩壊後の事かも知れないが・・・。
こういった問題を検証するにも、その時期を知りたいと思うのだ。
このルポタージュには、「口の中を血だらけにして、その上まだしゃべろうと」した生々しい証言で満ちあふれている。その全てが真実だとは思わないが、ソ連の軍事史に興味がある人間には、貴重な情報だ。
なお、「~シリーズ ソ連邦崩壊から20年~ アフガン帰還兵の20年 ~ある盲目弁護士の闘い~」は、NHK-BS1で12月30日(金)13:00~13:49より再放送される。
興味のある方は、是非。
本人もアフガンに従軍し地雷で両目の視力を失いながらも、帰還後に弁護士資格を取得し、困窮する帰還兵の権利擁護に奔走する弁護士の見えない目を通して、ウクライナのアフガン帰還兵達の苦しい生活ぶりを追うドキュメンタリーだった。
今でこそ好景気のロシアと低迷するウクライナの差はあれど、ソ連崩壊後は旧連邦構成国は、どの国も混乱の渦に叩き込まれ、連邦が保証した帰還兵への社会保障は瓦解していった。
しかも、ソ連版ベトナム戦争と言われたアフガン戦争は(その規模はベトナム戦争と比べると、実は遙かに小さいのだが)、国家だけではなく、大なり小なり国民の心を傷つけ、多くの問題を作り出した。その一つが帰還兵の問題である。
そんな帰還兵及び軍属、そして家族の証言を集めたのが、ベラルーシの女流作家スヴェトラーナ・アレクシエーヴィッチの記した『アフガン帰還兵の証言―封印された真実』である。
『アフガン帰還兵の証言-封印された真実』
(原題:Цинковые Мальчики/亜鉛の少年達)
著/スヴェトラーナ・アレクシエーヴィッチ
訳/三浦みどり
日本経済新聞社 1995年
ISBN4-532-16175-4
ここには忘れ去られ、忘れられようとしていた多くの証言に光が当てられている。戦車兵、砲兵部隊の隊長、看護婦、軍事顧問、帰還兵の母親や妻・・・。
これらの多くは、意図的に忘れられようとされていた、或いは思い出という名の箱の中にしまわれようとしていた記憶の数々で、よって発表当時は強くネガティブな反応が引き起こされた様である。
しかも著者を含め旧ソ連人が自由な報道という物に慣れておらず、当初新聞に掲載された証言は、証言者を特定が出来てしまう様な表記だった様で、裁判所への提訴にまで至ったという。
(証言は一部が1989年に白ロシア共和国の新聞に、翌年2月に全国紙「コムソモールスカヤ・プラウダ」に掲載され、そして同年7月に月刊誌「民族の友好」に全文が掲載された。本書は、それを書籍の形にまとめた物の訳本)
そのせいか、この本の中では証言者を紹介する物は、「兵士、迫撃砲手」「大尉、ヘリコプター操縦手」「事務員(女性)」「母親」などといった肩書きしか記載されていない。
巻末に女流ドキュメンタリー作家の澤地久枝の寄稿文が掲載されているが、この問題に触れて「せめて年齢を記載して欲しかった」旨を述べている。証言を読み解く際に、その体験した年齢は重要な問題になるからだ・・・という理由からだ。
しかしながら年齢は、おおよそ推測をする事が出来るものだ。そんな事よりも、せめて「派遣された時期を表記して欲しかった」と思う。証言の中には、兵士の生活や、取り巻く政治的環境など、多くの情報に満ちているのだが、それを歴史資料として検証するには時代を特定する必要があるのだ。
例えば、在る帰還兵は手荷物検査でアレクサンドル・ローゼンバウムのテープを没収されたと怒っている。国では家の窓から普通に流れてくるのに!・・・と。
これはローゼンバウムがアフガニスタン戦争に批判的な歌を歌っていたかららしいが、彼自身はアフガンに慰問コンサートに出かけ、その様子がモスクワの中央軍事博物館に展示されているなど、軍との関係が良いイメージが在るので驚いた。もっとも、それは連邦崩壊後の事かも知れないが・・・。
こういった問題を検証するにも、その時期を知りたいと思うのだ。
このルポタージュには、「口の中を血だらけにして、その上まだしゃべろうと」した生々しい証言で満ちあふれている。その全てが真実だとは思わないが、ソ連の軍事史に興味がある人間には、貴重な情報だ。
なお、「~シリーズ ソ連邦崩壊から20年~ アフガン帰還兵の20年 ~ある盲目弁護士の闘い~」は、NHK-BS1で12月30日(金)13:00~13:49より再放送される。
興味のある方は、是非。
by redsoldiers
| 2011-12-28 19:38
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