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『レッド・ストーム/Afghan Breakdown』

 このblogでも、折に触れては名前を挙げている映画『レッド・ストーム~アフガン侵攻~』。既に、サイトの記事の中で紹介しているのだが、改めてblogでも紹介したい。

 一部マニアの間では“『第九中隊』と並ぶアフガン戦争映画の傑作”と評価されている様だが、それは違う。
 『第九中隊」は、成金ボンのままごと。こちらは、本物の映画だ。


 '90年代の初頭、西側資本によるソ連やCISを舞台にした映画が量産された。衆目を集めていた地域であったし、一方では、混乱期ゆえに金次第で色々と都合がつき(逆に面倒な事もあったろうが)、なおかつ低予算で製作出来たからだろう。
 中にはソ連軍やロシア軍が全面協力!と謳ったアクション映画も製作され、兵器マニアの目を楽しませ、冷戦は終わったのだな・・・と、実感させた。

 そんな折り、近所のレンタルビデオ屋の片隅で見かけたのが『レッド・ストーム~アフガン侵攻~』だ。

『レッド・ストーム/Afghan Breakdown』_a0193363_2019335.jpg

『レッド・ストーム~アフガン侵攻~』

イタリア版タイトル:
 『Afghan Breakdown』
ソ連版タイトル:
 『Афганский излом』
ドイツ版タイトル:
 『Hölle ohne Ausweg(出口のない地獄)』

1991年ソ連・イタリア合作


 どれくらい隅っこに置かれていたかと言うと、当時、「レッド」と付いたタイトルには素早く反応する訓練を積んでいた私だから発見出来た・・・というくらい隅っこに置かれていた。
 アフガン戦争物とは興味深いし、「ソ連=イタリア合作」の文字が期待させる・・・が、ジャケットのデザインから観ても、明らかにB級戦争アクション映画扱いで、兵器マニアにアピールする様な写真や文面が並んでおり、胡散臭さというかイカモノ臭を発していた。どうせ、チラッとソ連製兵器が登場するだけの、マカロニ戦争アクションなんだろ?

 しかし、そんな思いは、ムスリム乳児の本物の割礼式を包み隠さず映し出したオープニングシーンで打ち砕かれた。

 正に、この映画は本物に満ちた作品だ。
 考えてみれば、ソ連軍のアフガン撤退から僅か2年しか経っていない'91年の公開作品である。どういった経緯で制作されたのかは不明だが、このタイミングで撮影されたのが奇跡のような作品であるし、よくもまぁ、劇映画として形にする事が出来たものだ・・・と驚愕するほか無い。
 それ故に、劇中で用いられる兵器類から軍用機材、衣装から小道具まで、全てが当時の物だ。
 兵士達が着用する軍服や装備品、戦死者を入れる鉛の棺桶、将校用のトレーラーハウス、司令室の安物の家具から作戦地図、等々・・・話は耳にしたが目にするのは初めてという物資や風景の数々。
 ちらりと映る慰問コンサート中のアレクサンドル・ローゼンバウム(Александр Розенбаум)と、彼の歌う「黒いチューリップ(Черный тюльпан)」
 当時の中央アジアのバザールやソ連女性のファッション。
 主役を演じるイタリア人俳優ミケーレ・プラチド(ミシェル・プラシド:Michele Placido)以外は、俳優達も当時のソ連人だし、恐らく幾つかのシーンでは現役の兵士が演じている可能性が高い。
 劇映画ながら、まるで当時の姿を封じ込めた記録映画の様だ。

 当然ながら登場する航空機や兵器類も本物。
 戦闘シーンでは、特殊効果を使う予算が無いから・・・という凄い理由で、容赦なく実弾を、村に、トラックに、生きている山羊に打ち込む。さすがに危険なシーンでは空砲や火薬を用いた特殊効果を用いているが、それでも老人や子供といったエキストラが爆煙に巻き込まれているのは、観ているこちらもドキドキする・・・大丈夫だったのか!?
 しかし20mm機関砲の恐ろしき事よ・・・。
 全てはCGが幅を利かせる前の、今では失われた古き良き時代ならではの映像だ。CGというプロメテウスの火を手にした人類には、もう既に、こういった映像を撮る事は出来ない。





 ストーリーは、偵察部隊の指揮官バンドゥーラ少佐と看護婦カーチャの不倫メロドラマを軸に、撤退直前の空挺部隊を描いている。

 初めて観た時には、映像の迫力に対して、ストーリーがパッとしないな・・・という感想を抱いたが、改めて見直すと、別の感想を持った。
 特に軸になるメロドラマは、有り触れたストーリーだし、アフガンに派遣された将校と女性軍属との愛人関係も良くある事だった様だ。だが、有り触れた話であるが故にリアリティがあるし、逆に古くささを感じ無いのだ。いやぁ、泣いちゃったなぁ・・・切なくて(←年喰っただけか?)。
 バンドゥーラ少佐の最後の立ち振る舞いも、当時は安っぽくて何だかなぁ・・・と思ったが、今改めて見ると、これはアフガニスタンから帰還した将校達の、あの当時の願望の一つだったんじゃないかな・・・とすら思える。
  間に挿入される各キャラクターのエピソードも実に良い。若手将校、古参軍曹、新兵、アフガン軍将校、現地協力者、ムジャヒディン・・・といった典型的なキャラクターを登場させながらも自然で嫌みが無く、彼(彼女)らの一寸したシーンに、当時の様子が分かるセリフや立ち振る舞いが、さりげなく入っているのも素晴らしい。
 それっぽくて印象的なシーンを散りばめたが、不自然で質の悪いパロディの様に成っている『第九中隊』とは雲泥の差である。

 観賞し直す度に新たな発見がある作品で、さすがはアフガン帰還兵達が「最高の劇映画」と絶賛するだけはある。

『レッド・ストーム/Afghan Breakdown』_a0193363_20194361.jpg


 因みに、作品は各俳優が母国語で演じ、上映に際して、それぞれの国の言葉(ロシア語⇔イタリア語)に吹き替えられた様だ。
 現地語(タジク語とパシュトゥン語?)は、そのままである。

 日本語版VHSは、イタリア版のマスターを使っており、全編ソ連兵がイタリア語で絶叫する。

 メディアの発達した御時世だから、イタリア語とロシア語の両方を収録した日本盤DVDが出ないかな・・・と祈願していたのだが、どうやらイタリア版とロシア版では、収録時間も編集も違う様で、話はそう単純では無い模様だ。
 しかも、調べていて分かったのだが、最近になってドイツ版DVDが出ており、こちらはドイツ語とイタリア語の吹き替えでロシア語は無し・・・収録時間は最長と成っている。何故!?

 イタリア語版:108分  ロシア語版:140分  ドイツ版:157分

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 イタリア版DVDジャケット

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 ロシア版DVDジャケット

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 ドイツ版DVDジャケット


 ここは是非とも、ドイツ版・・・とは言わないが、せめてロシア版をマスターに、日本盤DVDを出して頂きたい!
 彩プロさん、アルバトロスさん辺り、いかがですかね?



 ロシア版テレビスポット
 画像は美しくなったが、全く映画の良さを伝えていない。
 もうロシア人に、ソ連を描く事は出来ないのだろう。




by redsoldiers | 2013-09-14 15:19 | 映画 | Comments(0)

歴史軍装研究と模型製作の狭間に


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