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日本古流金属人形塗装法考(2) 水性アクリルカラー

パンジシールの獅子」ことマスード将軍を“白立ち上げ”技法で塗装した。
その際に
こういう塗り方が、シタデル・ショック以来、つい最近まで流行っていた古典的な水性アクリルカラーの塗装方法なんですけどね。
と記した。

シタデル・ショックについて記すと、これまた長くなるので別の機会に譲るとして、つい最近まで、少しでも発色について考える水性アクリルカラー使用者は、“白立ち上げ”技法を用いていた。
20年ほど前の雑誌を読み返していて思い出したのだが、今でこそ水性アクリルカラーの一つの技法の様に語られているが、これが基本であり、他に選択肢は無かった。
なぜなら、明るい色の塗料を、暗い下地にまともに塗れる模型用の水性アクリルカラーなんて、日本に無かったからだ!


私がプラモデルを作り始め、その後にメタルフィギュアの熱に浮かされる様になった1980年代末、模型屋に並ぶ塗料は、ラッカー系なら「Mr.カラー」、エナメル系なら「パクトラ・タミヤ」、水性アクリル系なら「タミヤアクリル」「水性ホビーカラー」の四種類に落ち着き始めていた。
時折、「レベルカラー」や、「ハンブロール」も見かけはしたが。

その中でも、水性アクリルカラーは、実に中途半端な存在だった様に思う。
即ち、被膜の強さや隠蔽力ならラッカーに劣り、発色や伸びの良さにはエナメルに劣る。
乾燥時間で言えば、ラッカーよりは長く、エナメルよりは短い。
長所は、匂いが弱く、筆を水で洗えるという事だけだろうか?

塗装技法でも、ラッカーであれば、暗い色から明るい色へとドライブラシでグラデーションを付けられた。隠蔽力が強かったからだ。
エナメルならば乾燥時間の長さと、伸びの良さで、微細な塗装が施せたし、何よりもブレンディングで自然なグラデーションが付けられた。

一方で、水性アクリルカラーは、その2つの塗料の塗装方法を踏襲してはいた。
・・・とはいえ、ドライブラシでグラデーションを出したくても、隠蔽力が弱いので発色が悪くなる。そこそこ乾燥時間があるので描き込みは出来たが、(当時は)ブレンディングが出来ないので、ハイライツやシェイドを入れても自然なグラデーションは難しかった。

かくいう私が使っていた塗料は、グンゼ産業の「水性ホビーカラー」だ。
何と言っても安かったからね!
他の塗料が一本150円はしたのに100円だったし。
筆を洗うのも、塗料を希釈するのも水道水が使えたのは大きい。
いちいち溶剤を使うのは面倒臭いし、消耗品に金がかかるのは、義務教育下の学生には辛いよね。

でも乾かなかったな・・・黄色・・・。
しかも原色ほど、発色が悪いし、隠蔽力も弱くってね・・・白ですら透けるんだ。
ガンダムとかは良いんだけど、ガンキャノンとかビルバインとかって成形色が赤でね・・・何度塗っても地色が透けて・・・小学生はサーフェイサーは使わないしね。


当時、海外のシタデル社を初めとする素晴らしい発色の作例を目にしていた日本のペインター達は、何とか同じ様な色を出そうと、白を多めに混ぜてみたり、模型用塗料に見切りを付けてアクリルガッシュに転んだりと、試行錯誤をしていた。
そんな頃、雑誌等で話題に上がっていた噂の「シタデルカラー」が日本に上陸したんだな。
買いましたよ!お年玉を叩いて!荻窪の喜屋ホビーでさ!
素晴らしかったよね・・・感動しました。
伸びも良いし、隠蔽力も仕上がりの質感も素晴らしい。それに何と言っても日本の塗料にはないビビットな発色に度肝を抜かれました(今は、「シタデルカラー」も大人しく成っちゃったけどね)。

それでもね・・・そんな当時の「シタデルカラー」でも、暗い下地に明るい色を塗って良好な発色出すのは難しかった。
日本の既成の塗料よりも、遙かに隠蔽力は高かったとはいえ。

翻って、現在の多くの「シタデルカラー」「ヴァレホカラー」といった水性アクリルカラーは、“黒立ち上げ”が出来るほどにまで、隠蔽力が向上した。
(黒地にオレンジを塗って下地が透けて見えないだなんて、まるで魔法の様だ)
筆の含みや、塗料の伸び、仕上がりの質感も、それはもう素晴らしい。
かくして“白立ち上げ”技法は、必須の技法から、一つの選択肢へと転じた。

20数年前、中途半端と言われた塗料が、模型塗料としては孤高の極みに達した感があるな・・・と、思った次第である。
・・・20年前の古い「シタデルカラー」も、まだ使っているんだけどね・・・。


(シタデルショックに関しては「FM企画」内の記事の文章を参照の事。
 また“黒立ち上げ(暗明法)”“白立ち上げ(明暗法)”についての記事も参照して欲しい)
by redsoldiers | 2011-07-02 20:49 | 道具/技法 | Comments(0)

歴史軍装研究と模型製作の狭間に


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